最近よく耳にする、任意後見制度についてやさしく解説いたします。
そもそも成年後見制度って何?
じつは、成年後見制度自体についても、よく理解されていない人が、たくさんいらっしゃることが現状です。成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。ここでは、将来に向けてますます、必要性が高くなってくる「任意後見制度」の内容とその必要性を中心に、ご説明させて頂きます。日本において、2005年(平成17年)には4人に一人が65歳以上という、超高齢社会が到来しております。
東京オリンピックを迎える2020年(平成32年)には、3人に一人(35%台)が65歳以上となると予測されています。日本の高齢者人口の割合は、主要国で最高となっており、今後とも高い水準で推移すると推計されています。(1位日本、2位イタリア、3位ドイツ、4位フランスと続きます)
このような背景も含め今後、成年後見制度はますます必要性を増していくと考えられています。
成年後見制度とは、認知症等の精神上の障がいにより、判断能力が不十分であるために、契約の法律行為の意思決定が困難な人の能力をサポートする制度です。個人が尊厳をもってその人らしい生活が送れるように成年後見人が、本人に代わって法律行為を行う制度です。
成年後見制度の根本規定
日本国憲法
第13条 個人の尊厳
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第14条 法の下の平等
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
先に述べたとおり、成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
「法定後見制度」とは、認知症、知的障害、精神障害等の精神上の障害によって、判断能力が、不十分な人の財産管理及び身上監護に関する事務を、家庭裁判所から選任された成年後見人等がサポートする制度です。
それに対して「任意後見制度」とは、判断能力が不十分になった場合に備えて、成年後見を行う受任者(任意後見人)を予め決めておく制度です。任意後見制度を利用するためには、契約時点で、契約する内容が十分理解できることを必要とし、財産管理及び身上監護に関する事務等をサポートする契約をあらかじめ締結します。
成年後見人って誰がするの?
2000年(平成12年)、民法等の改正によって、新しい成年後見制度が導入されました。(旧制度名は、禁治産・準禁治産)旧制度では、本人の判断能力を基準として裁判所が宣告し、宣告があると、戸籍に記載されました。名称も負のイメージが強く、また行為能力が極端に制限され、いわれのない差別を招いていました。旧制度の目的は、家の財産の減少を防ぐことが第一目的とされていたため、身上監護に関する側面についての視点に欠けている制度となっていました。しかし、現在では、本人の自己決定の尊重と本人の利益保護の両立を図った制度としています。そこで、実際に後見人とは、どのような人が就任するのでしょうか?
親族 42.2% ・・・ 子・兄弟姉妹・配偶者・親・その他親族
第三者 57.8% ・・・ 行政書士・社会福祉士・弁護士・司法書士・他
従来は、親族間で選任するケースが多かったのですが、年々減少し、一方で、親族以外の第三者が成年後見人に選任される割合が拡大し続けています。
理由としては、本来は本人の権利を守るために後見制度があるにも拘らず、子供が認知症の親の財産を使い込む等の事例が後を絶たず、親族である理由のみで、権利侵害の可能性がないと判断すること
ができないためです。 ※最終的には家庭裁判所が判断します。
高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律
第一章第二条4ニ
養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
成年後見制度利用の概況
2000年(平成12年)、民法等の改正によって、新しい成年後見制度が導入されてから2015年(平成27年)までの利用状況は、総計で約20万件です。まだまだ、利用件数が少ないことが現状です。厚生労働省の調査では、平成26年現在において成年後見制度を利用すべき人の数は、800万人を超えていると考えられ、今後成年後見制度の利用促進の必要性が急務になっています。
成年後見制度の事務範囲について
1.財産管理
財産に関する一切の法律行為および事実行為としての財産管理。例: 預金通帳、年金関係書類、重要証書、実印等の保管および手続き。金融機関とのすべての取引。日常の金銭管理。必要な、衣類や生活用品の購入。
2.身上監護
事実行為としての介護等は含まず、医療及び介護に関する契約等の療養看護に関する法律行為
例: 住居に関する契約および費用支払い。病院等の受診、入退院に関する契約および費用の支払い。福祉施設等の契約および費用支払い。
また、逆に成年後見制度では、取り扱うことのできない事務があります。
1.医療行為への同意
本人に対する医的侵襲行為に対する判断は、本人固有のものであることから、代理権等の及ぶものではないためです
2.事実行為
契約等の法律行為に対して、食事や排泄等の介助や、送迎、病院への付き添い等。
3.日用品の購入に対する同意および取り消し旧制度と異なり、自己の権利を尊重する趣旨から、本人が必要な食料品や、日用品の購入には、成年後見人の同意は必要としません。また、それらの行為の取消もできません。
任意後見制度の要件について
任意後見制度を利用するための要件について整理したいと思います。
1. 契約は公証人の作成する公正証書で行う必要があります。
2. 契約時に本人の判断能力に問題がなく、契約内容を十分理解できることが必要です。 ※ 判断能力の証拠書類として、医師の診断書の作成をお勧めいたします。
任意後見契約締結までの流れ
任意後見受任者の決定(親族、行政書士、社会福祉士、弁護士、司法書士等)
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後見開始時の代理権の範囲の決定(後見開始前の見守り契約は必要か? ☞ 事務委任契約)
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後見開始時の代理権の範囲の決定(後見開始前の見守り契約は必要か? ☞ 事務委任契約)
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判断能力の確認(本人の契約能力の確認 。必要に応じて医師の診断書)
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契約書案の作成(行政書士等)
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公正証書による契約締結(公証役場にて締結。法務局への登記 ☞ 公証役場にて実施)
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本人の判断能力の低下(家庭裁判所へ任意後見監督人選任審判申立。2~3ヶ月で任意後見開始の審判および任意後見監督人の選任が決定)
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任意後見契約に基づく事務の開始
まとめ
任意後見制度を締結しておくことのメリット
・本人の判断能力の低下前に見守り契約(事務委任契約)も一緒に締結することにより、後見開始前の本人の事務の軽減が図れる。
・事務委任契約により、後見開始となった場合、スムーズに事務管理の移行ができる。
・とくに親族が近くにいない一人暮らしの高齢者にとっては、本人、親族の両者に安心感が持てる。(第三者後見)